ブリュッセル事件 ~ 狂気の結末
- 2013/01/17(Thu) -
御存知の方も多くいらっしゃると思いますが、文学史上有名な事件、ブリュッセル事件に
つきまして、お話したいと思います。

ブリュッセル事件につきまして興味を持ちましたのは、去年、8月末に、24年ぶりに
再会しました、高校時代からの大親友、Fの住む町、シャルルヴィル=メジエールが

この事件の当事者のひとりである若き詩人、ランボーの出身地ということからでした。

Fに連れられ、シャルルヴィル=メジエールのお土産ショップへ入りましたところ、
詩人、ランボーグッズが所狭しと置いてありましたので、

「彼は誰?」

と、訊ねましたら、

ランボーよ。彼は詩人だったの。フランスの三大詩人のひとりと言われてね、
とても若い頃に詩を書いて、その天才的な才能で一躍有名になったの。 でも、彼はきっと、
ここに彼のグッズが並んでいる事を喜んでいない筈だわ。だって、彼はこの
シャルルヴィル=メジエールが大嫌いで、何度も家出しているのですもの。(笑)」

とのこと。 その美しい少年、ランボーの眼差しは何故か、とても惹きつけられるものがあり、
彼の詩を読みたくなりました。

Fが撮影したレジでお支払い中の私の画像ですが、思いっきりぶれてしまっていました。(笑)
お土産ショップにて、ランボーグッズが沢山並んでいるのがおわかりいただけるでしょうか。(^^)

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先ず、詩の内容に驚きました。彼が16歳~19歳の間に書いたという詩の数々の、何と
大人びたこと! 早熟の詩人ランボーといわれる所以に納得しながら読みましたが、
ランボーが詩を書いていた頃と同じ、16歳、そして今年19歳になる娘や息子と比べると、
全く比にならない程の成熟度で、勿論、言葉も鳥肌が立つほど美しい。。。
情熱家で破天荒だけど繊細な彼の、溢れるばかりの感性はまさに天才的。
とはいえ彼はまだ十代、不安定な年頃にありがちな焦りや憂鬱、鬱憤等の感情を、
そのまま詩に投影したようにも感じられます・・・ なんて、凡人で文学的才能の微塵もない
私が偉そうに述べることではありませんが、彼の魅力はこんな凡人でもわかります。

さて、話は事件に戻ります。 ブリュッセルに来られた方は、グランプラスから小便小僧のある
通り沿いの、ベルギーレースのお店の壁面に、こちらの↓パネルを見た事がある方も多いのでは
ないでしょうか。

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ここが、言わずと知れたフランス象徴派代表、三大詩人といわれる中の、ランボーと
ヴェルレーヌの二人が事件を起こした場所なのです。

このベルギーレースのお店は元ホテルで、1873年7月10日に、ランボーが
ヴェルレーヌに撃たれたという、いわくつきのお店なのです。

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詩人、ランボーとヴェルレーヌとの出逢いは、ランボーが16歳の頃でした。ランボーが住む
シャルルヴィル=メジエールからランボーが送った手紙を読んだ、当時既に文壇に名をはせていた
詩人ヴェルレーヌがパリに呼び寄せたのでした。
ヴェルレーヌには妻子がいました。ヴェルレーヌはランボーを妻の実家へ招き入れ、多くの知人に
ランボーを紹介して連れ回ります。ランボーも癖のある天才ではありましたが、ヴェルレーヌもまた、
滅茶苦茶なところがあり、ランボーの天才的才能や彼自身にすっかり惚れ込み、物凄いテンションで
ランボーとカフェで語り明かします。泥酔で帰宅するなり妻を殴り、翌朝猛反省し妻に謝りもう
二度とこんな事はしない、まっとうな生き方をする、と、涙ながらに誓って許しを得ても舌の根の
乾かぬうちにまた、ランボーとの愛欲生活へ走るという日々。 
ついにヴェルレーヌは妻子を捨て、ランボーと二人きり、ロンドンで生活するようになります。 
しかし、気性の激しい者同士が平穏に暮らせる筈もなく、金銭的にも困窮し、ヴェルレーヌは母親
からの仕送り(彼は20代後半だったのですが、母親はいつまでも息子を心配するものなのですね。
妻子を捨て若き愛人と駆け落ちした息子ですのに)と、フランス語を教えながら何とか生活費を得て
いましたが、ランボーはお気楽自由気まま。ヴェルレーヌは妻と幼い息子をパリに残し、絶縁状を
書いてまで常軌を逸したランボーとの生活を選び陶酔していましたが、とうとうお金も尽き、二人の
間は喧嘩が絶えず、時には刃物沙汰になる始末。
当然ですが、そんな滅茶苦茶な夫、ヴェルレーヌに妻は別居請求をしてきます。
益々憂鬱に塞ぎこむヴェルレーヌはランボーに愚痴ばかりこぼし、ランボーは辟易します。
愛の破綻は時間の問題でしたが、そのきっかけはほんの些細な事でした。あまりにもくだらな過ぎて
哀しいですが、7月3日、ヴェルレーヌはニシンを手に市場から戻ってきます。ランボーはその
ヴェルレーヌの姿を見るや大爆笑し、「どっかのオバサンみたいだ!(笑)」と、からかいます。
ヴェルレーヌは怒り狂い持っていたニシンを叩きつけ、そのままアントワープ行きの船に乗り込んで
しまいました。 ランボーはひとり、一文無しで置いて行かれたという事実に呆然とします。
しかし、冷静なランボーは、ヴェルレーヌが残して行った家具やその他、売れるものは全て売り、
お金にしていました。
一方、ヴェルレーヌはランボーとの日々を深く悔やみ、何とか妻とよりを戻したいと願います。
ですがランボーとの切るに切れない説明のつかない魂の交わりは一生断つ事ができない自分も
いるのです。惚れた弱み、というものでしょうか。。。

長くなりましたが、1873年7月8日、ヴェルレーヌはブリュッセルに到着、そしてパリに住む
妻に何とか許して欲しい、和解したい、すぐにブリュッセルに来て欲しい、来てくれないなら死ぬ、
と、丸で脅しのような情けない手紙を書きます。当然のことながら妻は現われません。 
ヴェルレーヌは街中を飲み歩き、泥酔状態、そんな中、同様の手紙に反応し、ブリュッセルに
かけつけてくれた人物がいました。 それは母親でした。(母親の愛情って海よりも広く深いと
いいますが、暴力的でアル中、しかも妻子を捨てランボーと駆け落ち後、妻に和解を求めるという
息子でも、息子は息子なのでしょうか。。。) 同時にヴェルレーヌはランボーにも手紙を書いて
いたようで、7月9日、ランボーはブリュッセルにやってきました。しかしヴェルレーヌと母親は、
万が一妻がブリュッセルに来る事を恐れ、ホテルを変えます。 ランボーとヴェルレーヌは口論、
激論の繰り返し、ランボーはひとり、パリへ戻りたいと言うと、ヴェルレーヌは逆上し、暴れ狂い、
脅して見せるもののランボーは冷たく動じません。 恋人も妻も自分を見捨ててしまうという
恐ろしい程の絶望に苛まれ、ヴェルレーヌは7月10日にギャルリー・サンチュベール内にある
武器商会を訪れピストルを求め、泥酔状態でホテルに戻り、ランボーにピストルをちらつかせます。

ヴェルレーヌがピストルを求めたというギャルリー・サンチュベール↓は、頻繁に訪れる大好きな
ショッピングアーケードです。

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銃を見たランボーは「何に使う積り?」と、訊ねると、

「お前の為、俺の為、皆の為!」と、泥酔ヘベレケ状態のヴェルレーヌは自制がききません。

部屋のドアに鍵をかけ、ランボーに向けて引き金を引いてしまいます。ヴェルレーヌは笑いながら

「そら見ろ!お前がパリへひとりで行ってしまうだなんて言うからこんな事に!」と。

その一発目はランボーの手首を撃ち、二発目は床に。 ランボーの手首から流れ落ちる血を見て
ヴェルレーヌは一気に酔いが醒め、自分の犯した事の重大さに恐れおののき、ベッドに倒れ
こむとランボーにピストルを差し出します。「これで俺のこめかみを撃ってくれ。」と。
勿論、ランボーはそんな事はしませんでした。 ランボー18歳、ヴェルレーヌ29歳。
これが文学史上有名な事件、ブリュッセル事件です。

ヴェルレーヌは母親に泣きつき(ランボーとは違いマザコンだったのでしょうか。ランボーは
母親を嫌い憎んでいたということもあり、早く家を出たがっていたようです)少しずつ冷静さを
取り戻します。ランボーは近くの病院で傷の手当てをしてもらい、その後すぐ、パリへ向かおうと
すると、またまた優しいヴェルレーヌの母親がランボーに旅費を渡し、ヴェルレーヌをホテルに残し
ランボーと共に南駅へ向かいましたが、ヴェルレーヌに気づかれ、「絶対にパリへは行かせない!」
と、錯乱したヴェルレーヌはランボーにピストルを向けます。ランボーは素早く交番へ駆け込み、
ランボー、ヴェルレーヌ、そしてその母親の3人は警察へ出頭。その後ヴェルレーヌは刑務所に、
ランボーはこの狂気の関係を糧に『地獄の季節』を出版します。 

ランボーが詩人として活動していましたのは、16歳から19歳迄ととても短く、その後文学
からは遠ざかり、あちこち転々とした後、交易に従事、その後関節疾患の治療の為フランスへ
戻り、37歳で一生を閉じます。 ヴェルレーヌは獄中で書いた詩が高く評価され、皮肉にも
ブリュッセルに文士として講演会に招かれます。しかし相変わらず酒癖が悪くアル中、暴力的で
最後までトラブルメーカーな助平夢遊者として惨めな一生を1896年、51歳で閉じたのでした。
ランボー同様、「秋の日の ヴィオロンの …」で有名な、世に名をはせる程の詩人、
ヴェルレーヌは何とも破滅的で哀れな人生だったのですね。

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